2012年1月29日
日本の伝統芸能である「能」で使われる能面にも木が使われています。
能面は、主にヒノキで製作されています。ヒノキは、柔らかくて軽く、ゆがみや縮みなどが少ない優良木材で、日本最古の木造建築「法隆寺」にも使われています。
250~260種類くらいあると言われている能面ですが、基本的なものは60種類くらいで、そのほとんどが室町時代の末期に完成されています。桃太郎侍でおなじみの「般若(はんにゃ)」や「小面(こおもて)」などは、印象深い面だと思います。
能面が世界中にある仮面の中でも特に優れている点は、役柄をただ単に明示するだけではなく、面の動かし方でさまざまな感情を表情できるように精巧な工夫がなされているところです。
この面の動かす動作は、「テラス」「クモラス」「ツカウ」「キル」「シオル」などと呼ばれています。
少しうつむくこと(クモラス)で面全体のかげりが多くなり、憂いをおびた表情になります。これによって、とまどいや恥ずかしさを表現します。さらにこのままの状態で手を目に当てれば(シオル)、泣いている様子を表現できます。
逆に少し上を見上げる感じであおむける(テラス)と、明るい表情へと一変します。この状態で扇を胸の前で大きく動かすと大いなる喜びの表現となるわけです。
数ある能面の中でも、木材が持つ特性が偶然活かされたものに「節木増(ふしきぞう)」という女性の面があります。
「節木増」は、制作したときに節のある檜が使われたのですが、しばらくすると、ちょうど鼻の左側にあたる節からヤニが出てきて、人間で言うところの「しみ」のようになりました。
普通なら、そのヤニを除去して塗り直すところですが、作風があまりにも素晴らしい面だったため、そのまま手を加えることなく、「節木増」という一つの型として残るほどになったのです。
今でもこの面を制作する際は、わざわざ元の面と同じところに節がくるように面取りをしたり、「しみ」を書き加えたりしています。
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