2018年9月26日
都市から少し離れたところにある、昭島台幼稚園。
この幼稚園では、「3歳から5歳までの間に身につけるべき基本的な力を身につけること」をコンセプトに、特徴ある幼児教育を行っています。
その中で、重要視されているのが触覚、つまり”何かを触って学ぶ”ということ。
「子供がよく触る場所は、木材にしたいんですよ。」と、優しい顔で理事長はいろいろとお話ししてくれました。
「幼児教育の第一は、小学校に行くときに”6歳の子にふさわしい資質を身につけてもらうこと”なんです。
その内容は”人の話をちゃんと聴ける”とか、”みんなで何かを成し遂げると楽しい”とか、”人の痛みがわかる”とか。そういった”人間として当たり前のこと”です。それを育むことができればと思っています。
幼稚園の間の3歳から5歳の子には、知識は必要ないですし、英単語も必要ないですよね。
大人になってから思考に使う大脳新皮質などではなく、その奥の感情を司るものでもなく、そのもっと奥にある痛いとか寒いとか、心地よいとか。その辺りの感覚が、3歳から5歳が一番成長する年齢なんです。
触覚で例えて言うならば、手触りが気持ち良いとか、グニャグニャのスライムが気持ち悪いとかですね。
その部分を幼少期にきちんと鍛えてあげないと、なかなか大人になると鍛えにくい。
だからこそ、五感を通した体験を脳にたくさん体験させてあげたいのです。
その中の一つが、木材を触ったり、嗅いだりする体験ですね。」
「最初に、脳に刺激を促してくれるのは五感なんです。
木がたくさんあるってことは、五感にたくさん刺激を与えます。
例えば杉とヒノキでも手触りも匂いも違うし、そういうのは五感で味わえて、面白いですよね。
だからと言って、鉄筋やコンクリートが良くないわけではないんです。
大事なのは、色んなものに触ったりぶつかったり嗅いでみたりという体験を幅広く行うこと。
色々な刺激、情報を五感を使って体験させること、その環境が子供の成長にはとても大事なのです。
幼稚園の園舎は昭和にできた建物なので、鉄筋コンクリートで安全に、効率がよく、メンテナンスも楽なつくりになっているので木材は導入されにくいんです。
それを少しなんとかしたいなあと思って、せめて子供が触れるところは木にしようと、木製の部分を増やしています。」
「生垣にある木の枝触ってみたり、落ちている木の実を拾ってみたり。
そうして五感で感じることによって学んでるんです。
自分たちも触って覚えてたはずなのですが、あまり覚えていないですよね (笑)
大人になると、皆さんもうあまり何でもかんでも触ることはしないと思います。
それは子供の頃に学び終わったからで、大人になってから五感を使って学ぶことは少し難しいんです。
だからこそ、子供の頃に五感をフルで感じること。
そのことを通して、より色んなことを感じられる人になってほしいと考えています。」
―私もそうしていたのかは覚えていませんが、確かに公園で遊んでいる子供を見ていると、なんでも触ったり、何かを確かめているような行為をよく見かけます。そうして、物事を知っていくんでしょうね。
それが、偏った素材だけに囲まれていると、何を触っても一緒になってしまい、好奇心が育つきっかけを失ってしまうのでしょうね。
「そういうことがあるから、木材とかもよく使って、いろんな感覚を子供達に味わってほしいなあと常々思っているんです。
都会の方だと、子供が一人で遊んでいる光景を見ることは珍しいんですよ、近所の方が見守ってくれるという意識も低いので、危ないんですよね。
そうなると、子供が体験する出来事が、親の目の範囲でできることや、家の中でできることに限定されてしまいます。
それがとても勿体無いと思うので、今幼稚園に虫がくる森を作ろうと思っています。
クヌギを植えたりするとカブトムシも来るけどスズメバチも来るんです。
だからこの辺にあったクヌギ林も全部無くなってしまって…
でも子供としては、クヌギの実とかを見たり触ったりすると、面白いですよね。
確かにスズメバチは怖いけど、自然って優しいだけではなく、厳しいこともある。
そういうことを教えてあげるというか、体験させる機会があったほうがいいと思うんですよね。
他にも、幼稚園の庭に柑橘系の木も植えてますが、柑橘の植物って枝にトゲがあるので、幼稚園にはあまり植えないんです。
でもそれも、”不用意に自然に手を出せば痛い目見るよ”ということを学べる機会じゃないですか、痛いっていうのも五感ですからね。」
―最近は、子供の怪我や安全に対して昔よりも意識が高まったからこそ、親もなるべくそういった危険から遠ざける傾向にあると思います。ただそれは一方で、物事を学ぶ機会を減らしているとも言えるのですね。
実際私も過保護気味に育てられ、危ないことを避けて来たので、遊具から飛び降りる楽しさも知りません。極端になることはよくないですが、バランスよく、そんなに危なくない範囲でいろんな体験をさせてあげた方がいいのかもしれません。
「木の何がいいって言うと、人間にとっての肌触りというよりは、自然のものだからです。
人間が本能的に求めるものだから、学べるし、癒される。
でもその肌触りの良さをどこかで学ばないと、そう感じることもできないですよね。
おそらく木育というのは、木の遊具を入れたり環境の中に木を取り入れたりすることによって、その感触とか匂いとか色だったりを経験することだと思うんです。
色も最近は木育用の遊具はものすごく綺麗、真っ白だったりするんです。
でもそればっかりでは、自然ではないじゃないですか。
節があったり、乱暴に扱うとトゲが刺さっちゃったり、そんなのもあっていいのかなって思うんです。
だから究極的には自然の優しさとか怖さとか不完全さとか、そういうとこまで学べる環境を作れたら理想だなって思います。」
―普通に暮らしていると、自然からは離れてしまいがちに思います。虫が多いから、危ないから、不便だから。理由は様々あると思いますが、必ずしも野山に入らなくても、暮らしの中で庭やテーブルというレベルでも取り入れると、心が穏やかになりやすいかもしれませんね。
「うちの幼稚園を出て小学校にいった子が褒められることがあるんですが、その褒められ方が、”関心の持ち方がすごい””興味を持ってくれやすい”って言われるんです。
それは、幼稚園などで色んな経験、体験をしてきたから、物事に対して興味がある、新しいものは気になる!という前提ができているからだと思うんです。そういうのはすごくよかったなと思います。
でもまだまだこれからですよ。
水遊びとか泥遊びする場所も作りたいし、感触がまだまだこの幼稚園には足りないです。
指絵の具、フィンガーペインティングとかもやり始めたりしています。
ネバネバしている絵の具を使って描くというものなんですが、子供にその絵の具を使わせてやってみると、まず絵を書くよりもそのネチョネチョ感とかが楽しくて仕方がなくて、ずっとそれだけで遊んでいるんです。
そういうのを見て、『ああまだまだ足らないなあ、もっといろいろ経験できる場作りをしなきゃ』って思います。(笑)」
―自分の幼稚園の頃はもう覚えていませんが、きっと先生たちが色々考えながら、日々接してくれていたのだろうなと思いました。まだ何もわからない子供を、なるべく良い方向へと導いてくれた大人たち。今度は大人になった私たちが、未来を作る子供達に道のりを示す番なのかもしれませんね。
みなさんが最後に地面を触ったのはいつですか。
壁を触ったのは、改めてテーブルを触ったのは?
子供の頃なんとなくしていた何かを触り、匂いを嗅ぎ、学ぶということ。
大人になってからはなかなか縁がないですよね。
それが自然ではあるのですが、今一度木材などの自然素材に触れてみると、少しだけ心が軽くなるように思います。
特に一から作るDIYに関しては、何度も何度も木材に触れるので、五感全てで感じられると思います。
お子様がいるご家庭は、一緒に作るのもいい学びが与えられるかもしれません。
毎日触れる食卓のテーブルは無垢材にしたい!とおっしゃる方も多くいらっしゃいます。
大人になった方も、お子様と一緒に何かに触れる楽しさを木材で体験していただけると嬉しいです。
ちなみに、昭島台幼稚園さんには、マルトクの木材を使ってカバンとカゴがピッタリ入る棚を制作いただきました。
市販のものではなかなか見つからなく、それなら作るか!と思い、先生みんなで作ったとのこと。自分たちが作ったものが、子供達の役に立っていると思うと喜びもひとしおなのではないでしょうか。
色んな組で木材が役に立っていたようで、私たちとしても嬉しかったです。